恋は盲目〜好きって言ってよ
「奈々ちゃん、まだ、わからない」
彼の低い声が、さらに低くなる。
そうだった…どこへ行くのも一緒だと約
束していたのだった。
どこへ行くのも…一緒。
仕方なく彼と一緒に部屋に帰る。
着替えている間、彼は部屋の中央にある
ソファに座りくつろいでいる。
彼の部屋と違い整理されていない部屋…
掃除をサボっていた事を後悔しながら、
急ぎ着替えて彼の前に出る。
あまり見られたくないので、彼を急かし
部屋を出て車に乗り込んだ。
不満そうな彼をなだめるようにどこへ行
くのか相談
「どこに行く⁇」
「奈々ちゃんと行けるならどこでも運転
するよ」
不貞腐れながらも私を優先してくれるの
は彼の優しさなのだろう。
せっかくの休みなのに彼をこれ以上疲れ
させたくなかった…
「もう、遅いし遠くまで無理だね。私、
明日は仕事だし…買い物なんてどうかな
⁈」
一生懸命考えて出した答えが買い物だな
んて情けない。
他に気の利いた答えがなかったのか⁈
「いいよ。買い物に行こう」
何気なく入った雑貨屋
部屋のカギにつける大きなアクセサリー
がほしくなり、ふわふわの綿菓子のよう
な柔らかいポンポン玉のキーホルダーを
見つけた。
「かわいい…」
何色もあり悩んでしまう。
横で彼が見ていた。
「俺もほしいな…」
(ちくん…)
胸に走る痛み。
大人の男がこんなかわいい女物を欲しが
るなんてありえない。
きっと、誰かにプレゼントするのだと思
うと買いたくなかった…
深く、考え過ぎなのかもしれない。
名残惜しいけど、その場を離れて奥にあ
るお香コーナーでいつも使っている白木
のお香を見つけてレジへ向かう。
レジでは彼がお金を支払っていた。
手には、お店の袋。
その袋の中身は、何⁈
それは誰の物⁈
膨らんでいく疑問。
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家の近くのファミレスで、少し遅めの夕
食を取り家まで送ってもらう。
車に乗り動きだすと終始無言の2人。
こんなに長い間一緒にいたのに離れたく
ない。
明日なんて来なければいいのにとさえ思
ってしまう。
車は私のマンション前で止まった。
無言の車の中の静寂を先に壊したのは彼
だった。
「奈々ちゃん、明日俺の家から仕事に行
けばいいのに…駄目かな⁈」
ハンドルを握る手に顔をのせ私に向ける
表情はすがるようにせつなげだ。