恋は盲目〜好きって言ってよ
歩いて10分くらいの所に住む一人暮らし
の私にはどちらの選択肢もなかった。
雨が止むまで、近くのコンビニで時間を
過ごそうと店に入る。
買い物カゴを手に持ち、ビール2本、お
つまみにチーズ…それとご飯を作る気も
失せていたのでカップラーメンを一つカ
ゴに入れた。
「太るぞ…」
背後から声が聞こえ、振り返る。
「な、なんなの?私が何を食べようと関
係ないでしょう」
意地悪な笑みを向けられケンカ越しでム
キになる。
「本当に君って面白いね」
また、苦笑して私を見ている。
ムカつくのに彼の笑顔から目が離せない
のはなぜ⁈
からかったお詫びと言って私の持つカゴ
を取りレジへと向う。
そんな事をしてもらう訳にはいかないと
財布を取り出すが、あっという間に彼は
会計を済ませてしまった。
外を見ながらつぶやく彼。
「まだ、止みそうにないね。君は、どう
するの?」
「このままだと濡れて帰るしかないかな
⁈」
「俺ん家、直ぐそこだし……雨宿りして
行く⁇」
友達でもない見ず知らずの男の家に行く
わけがない。
返事はノーに決まっている。
断ろうと口を開きかけた時また、口元を
押さえて笑った。
からかわれたのだ。
「結構です」
彼を睨み店を勢いよく出ると、横殴りの
雨に服がびしょ濡れになっていく。
それでも一歩、二歩と前へ進む。
急に後ろから手首をつかまれ、歩みが止
まり、振り向くとびしょ濡れの彼が立っ
ていた。
「ごめん、悪気はなかったんだ」
顔色を伺う小動物のような表情で覗いて
くる彼を、一瞬、愛おしいと思ってしま
った。
「わ、わかったから手を離して…」
振り払おうと手に力が入るがビクともし
ない。
「おいで…そのまま帰せないよ」
「大丈夫だから離して…」
「大丈夫じゃない…透けて見えてる」
胸元を見ると白いブラウスに黒いブラが
透けていた。
あわてて胸を隠すと彼が着ていたスーツ
の上着をかけてくれると『何か服を貸し
てあげるから』と言われ、逃げれずに彼
に手首を掴まれたまま後に続いて歩く。
どうしてこんな事になったのだろう?
駅前の地下道を通りマンションへと入っ
るとエレベーターで5階へと上がる。ネ
ームプレートには藤原と書いてあり、鍵
を開けた彼は、扉を開け私が入るのを黙
って待っている。