姫 ~なくてはならないもの~
「はいはい、ごめんなさいねー」
相手をきつく睨む。
すっとした切れ目。整った眉。
高そうな鼻はマスクに隠されていた。
多分、世のいうイケメンってやつ。
イケメンだからってぶつかって謝らないでいいってもんじゃないでしょ。
こういう奴、大っ嫌い。
格好いいからなにやっても許されるって思ってんだ。
あーあー、やだやだやだ。
「……お前さ、思ってること声に全部出てるから」
「へ?あ、嘘。ご……ごめんなさいっ!」
「ちょっとは否定しろっつーの」
男が手を私の上にだした。
殴られる!!と思って、歯を食いしばる。
けど男がとった行動は予想外で、私の頭をぽんぽんっと撫でた。
「え……?」
「次から転ばないように気つけろよ。じゃーな」
『さつき転び過ぎ。気つけろよ』
私の横を通りスタスタと歩いて行く彼が
一瞬、ほんの一瞬なっちゃんに見えて
振り返ってみるけれど、もうそこに男の姿はなかった。
さっきの男の制服を思い出す。
ネクタイの色は私と違って青のチェック。先輩、か。