ねこにごはん【完】
靴を履き直す菊地原くんの頭を撫でたくなったけど、まだ人の多いこの場では控える行動であると分かっていたから、出しかけていた手を静かに引っ込めた。
そのまま他愛もない会話をしながら外に出て、少しだけ曇った灰色の空の下でいつものベンチに座り、膝の上でお弁当箱を開ける。

今日は菊地原くんの大好きな玉子焼きに力をいれてみた。
これまでとは違う味付けにしてみたんだけど、気付いてくれるかな?


「……なんか、この卵焼き変な味がする~」


わくわくしながら箸を進める私の隣で、菊地原くんがそんなことを言ってきたものだから、私は動揺してしまう。

え、うそ、変な、味……?
変というのは具体的にどういう感じなのだろう?
牛乳を加えると味が柔らかくなるっていうか試してみたけど、お口に合わなかったのかな。
味見した時は普通に美味しいと思ったし、私の方に入っている玉子焼きも朝と同じ味がした。

もしかして菊地原くんの玉子焼きだけ変な味がするようになっちゃったとか。
でもそれどういう突然変異だよ。
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