ねこにごはん【完】
「こっちのも味見してみるぅ?」


菊地原くんが首を傾げて、悩ましげな私の顔を覗きこんできたから頷いてみた。
味覚に個人差があるのは当たり前だし、自分の舌で確認するのが一番だと思ったから。

だけど菊地原くんのとった行動には意表を突かれた。
私はてっきりその手に握られている箸で玉子焼きが運ばれてくるものだと思い込んでいた。
なのに菊地原くんは自らの顔を私に接近させてきて、


「……ごめん嘘。ほんとはすごく美味しい」


優しく口付けてきたのだ。
すぐに離れた唇に僅かに残る甘い味が、菊地原くんのセリフを証明していた。

私はポカンとしたまま思考を働かせる。
スキンシップが激しいのは知っていたけど、まさかここまで積極的だとは。欧米人の上をいっている。

思いの外自分が冷静なのは、今の行為をあまり意識していないせいだろうか。
こんなの、うちの猫に舐められたのとなんら変わりない。だって菊地原くんは猫だもん。
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