ねこにごはん【完】



「――!」


あの日から休日を挟んで五日経った日のこと。
久し振りに見たその姿に私の心臓が跳ねた。

先生に頼まれて集めた英語のノートを抱えた私は廊下を歩いていたのだが、前方に菊地原くんが友人に囲まれて笑っている光景があったのだ。
一本道を引き返すのも不自然だから、私はそのまま足を進める。
気まずさのせいもあり、俯きがちになりながら早足で横を通り過ぎた。
当然、菊地原くんが私に声をかけることはなかった。


「やっだぁ、拓実マジ馬鹿じゃーん」
「え~、ボクこれでも真面目にやったんだよぉ」
「お前でも真面目になることあるのかよ」


後ろから聞こえてくる楽しげな声に耳を塞ぎたくなる。
今までなら菊地原くんが他の人と笑っている姿が可愛くて愛おしくて、それを遠くから見ているだけで満足できていたはずなのに。

今はどうしてこんなに苦しいの。どうしてこんなに悲しいの。
他の女の子とくっついてお喋りしている菊地原くんを見ているのが辛いのはどうして。

張り裂けそうな胸を押さえ付けて私はある感情が生まれくるのを感じた。

――ああ、やっと理解できた。
これが本気で人を好きになるということなんだ。
菊地原くんが私に向けていたのと同じ、ライクじゃなくてラブという想い。

それに気付いた時、私の目尻には涙が滲んでいた。
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