ねこにごはん【完】
私の斜め前を歩く拓実くんの頭やお尻に猫耳と尻尾の幻覚を見てしまう癖は、実をいうとまだ治っていない。
もちろん今はちゃんと人間の男の子として好きなんだけど、彼の猫みたいな可愛いさは衰えることなく健在なものだから、つい色々な妄想を抱いてしまう。
残念ながらそう簡単に切り替えが出来るほど、私は万能な人間ではなかったということだ。

だからこれは拓実くんには秘密。だってまた拗ねられちゃったら大変だし。


「こうして外でお昼食べるのもそろそろ終わりかなぁ」


冷たい空気に触れ、ほんのり赤く色づいた指先を見てはそんなことを呟く。
周りには他の生徒の姿はなくて、いつものベンチに私と拓実くんの二人だけだった。

もうすぐ吐息が白く染まる冬がやってくる。
そしたらここでお弁当を食べるのは春までお預けになっちゃうのか。
どこか寂しげな私に、拓実くんは「来年は同じクラスになりたいねぇ」なんて笑いかけてきたから、笑顔で首を縦に振った。

お揃いのお弁当箱を拓実くんに差し出す。
拓実くんが黒猫で私が白猫。
あの時拓実くんがプレゼントしてくれた猫の形をした、いっそ使わずに飾っておきたいくらい可愛いデザインのお弁当箱だ。
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