最悪から最愛へ
平日ということもあり、劇場内は空いていて、峻と渚の他には老夫婦が一組いるだけだ。老夫婦は真ん中に座っていた。

「後ろから見るのが好きなんだ」


峻が後ろへと上がって行くから、渚はあとを付いていく。たくさんの席が空いているのだから、離れて座るという選択も出来たが、あまりにも空きすぎていたので、つい峻の隣へと行く。

広々としたところに一人で座るのは、寂しいように感じたからだ。


「わっ…店長の手…」


「は?俺の手?」


コーヒーの入ったカップを持ち上げた峻の手に渚は釘付けになっていた。


「その手…私のタイプの手なんですけど」


「は?紺野のタイプの手?」


峻はカップをドリンクホルダーに入れて、手を少し上にあげる。渚の言う意味が不明だった。


「その長さとか形とか…私の理想とする要素が…」


渚は理想の手について語り出す。
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