最悪から最愛へ
「おい…ひとまず落ち着け。もうすぐ始まるから」


興奮が収まりそうにない渚を制止した。これから映画が始まるというのに、たかが手に興奮されては困る。


「あ、そうですね…」


今置かれている状況を気付いた渚は、大きなスクリーンに視線を動かす。何で、何とも思っていない男の手に惹かれてしまったのだろう…。

何とも思っていない…というよりも、嫌いだと思っている男だ。でも、理想の手がどうしても気になる。渚にとっては、たかが手ではないのだ。


「ん?そんなにもこの手が良いなら、握っていてやろうか?」


映画が始まったけど、集中出来ていないように見える渚に峻は、耳元で囁く。


「ちょっ…近いです…。大丈夫…集中出来ますから」


近付いた峻の肩を軽く押す。


「それなら、集中しろよ」


集中…集中しよう。


「グズッ…」
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