最悪から最愛へ
「出るか。大丈夫か?」


「はい」


峻が立ち上がるのに合わせて、渚も立ち上がる。手は繋がれたままである。

見た目が理想的な手は、握られ心地も良い手だった。汗ばむことのないさらっとしているのも渚の好みだ。


繋がられている手に渚の意識は集中している。実は、離すタイミングを逃してしまったのだ。


どう離したらいいだろう?いきなり離すのは意識しているようで、恥ずかしい。だからといって、このままでずっと歩くのも恥ずかしい。

離す方法を考える。


「なあ?」


「は、はい!な、なんですか?」


手に集中していた渚は、峻が話しかけていたことに気付いて、慌てた返事をしてしまう。


「どこか行きたいことがあるか聞いたんだけど」


「ああ、行きたいとこですね。行きたいとこ…行きたいとこ?えーと…」


映画が終わったら、すぐに帰ろうとしたことは忘れているようだ。




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