最悪から最愛へ
駐車場に放置されているショッピングカートが目に入り、取りに向かう。


「紺野さん、こんにちは」


「あ、いらっしゃいませ」


名前は知らないけど、よく買い物に来る常連客だ。多分、渚と同じくらいの年齢だろう。少し小太りなその客は渚のことを気に入っているようで、よく話しかけてくる、客に話しかけられて、答えないわけにはいかない。苦手なタイプの客でも、笑顔で接客をしなければならない。

渚はショッピングカートを押しながら、店内へ戻ろうとする。


「ねえ、紺野さん。今度お休みはいつなの?」


「えーと、確か…明後日ですね」


「お休みの日は何しているの?明後日は何する予定なの?」


プライベートな質問には軽く答えられない。


「すみません、お客様。そういった個人的な質問には、規則でお答え出来ないことになっていまして…」


渚はあっさり会話を終わらせたつもりだった。

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