最悪から最愛へ
「じゃあさー、連絡先を教えてよ。それともここで待ち合わせをする?」


「本当に困ります」


どう頑張ってもここから抜け出せない。誰か店内放送で、呼び出してくれないものかと心の中で懇願する。


「紺野?どうした?お客様、何か不都合でもありましたでしょうか?」


渚を呼んだのは、峻だった。一番呼ばれたくない人だが、この場ではそんなことも言っていられない。嫌いな峻でも、店長なのだから、救いを求める。


「あ、あの、店長…」


しかし、なんと言って救いを求めたらいいのか?

峻は、さっきすれ違った客から聞こえた話と今、微かに聞こえた話で、渚がこの客に言い寄られているのを察していた。


「ああ、店長さん。紺野さんにいつも優しくしてもらっているお礼に食事を誘っているのだけど、別に構わないよね?」


悪いことをしているという自覚が全然ないようで、峻に同意を求める。
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