最悪から最愛へ
峻は一瞬だけ渚を見る。渚は助けを求める目をしている。困っている部下を助けるのは、上司である店長の役目。いつも生意気な渚が困っている姿は、峻から見たら滑稽だが、ここで笑うことはしない。


「お客様。大変お気持ちはありがたいのですが、紺野は特別なことをしているのではなくて、仕事としてお客様に優しくしたはずです。だから、そのようなお気遣いはなさらなくて結構です」


優しさを勘違いするなという意味合いも込めて、少し強めの口調で話す。こんなふうに勘違いする客は意外に多く、ストーカーされる前に牽制しておく必要があるからだ。


「でも、食事くらいならたいしたことないでしょ?お礼としてがダメなら、この店と関係なしに誘うならいい?」


この客は簡単に引き下がらない。個人的に誘うとなると渚の気持ちが問題になる。

でも、渚がこの客に特別な好意を持っているようには見えない。
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