最悪から最愛へ
「いえ、誘われたことはないです」


「話をしたことは?」


「ありますけど、天気の話とかですよ?」


「暑いですね」「寒いですね」「風が強いですね」といったごく普通の世間話的なことしか話していない。


「なんか優しくした?」


優しくしてくれたお礼だと誘っていたから、渚が何かしたのではないかと峻は考える。しかし、渚には特別優しくした覚えがないし、天気以外の話をした覚えもない。


「優しくしたことは、ないんですけど…」


思わせぶりなことも言ってない。だけど、自分の気付いていないことがあるのかもしれない。だから、はっきりないと断定するのを躊躇う。


「んー。紺野にしたら、当たり前のことでも、あの客からしたら、特別な優しさと思うこともあるかもな…。思い込みの激しい人、いるからな」


「私が女だから、いけないのでしょうか?」


女の店員というだけで、絡んでくる客もいる。
< 78 / 236 >

この作品をシェア

pagetop