俺は後輩でしかなく
俺は先輩を見ると、声をかける。
おはようございます。さようなら。授業のこと。テレビ番組。部活のこと。
よく"恋する乙女"というのを聞くが、今の俺はまさにそれだった。男だから乙女じゃなくて、"恋する青年"とかだろう。自分でいっててあれだ、かなり合わなくて笑えた。
倉田先輩はテレビよりも本が好きだという。俺は本を読むと眠くなると返す。すると先輩はあきれたように笑い、「それじゃ国語の授業大変でしょ」といった。
先輩と話していてわかったのは、同級生のにぎやかな女子たちとは少し違う雰囲気だということだ。大人なのだと思ったらどこはかこどもっぽいこともしてみせる。わかった、知ったといってもそれは先輩のわずかな部分でしかない。先輩の友達に比べたら、俺なんて。
告白してしまえば、早い。
イエスかノーか、その他ならまずは友達から、とか。
アドレスすら聞けない俺はまちがいなくへたれだった。
情けない。
どうしてこんなに苦しいんだよ。
言ったら困らせることを知っている。だから言わない。それは逃げかもしれない。
先輩は俺よりも先にこの田舎を出る。こんな田舎じゃ体験できないこととか、いろんな人と出会う。その間俺はまだ高校生。受験だとかなんとか騒いで、一人先輩の後ろを歩く。
社会人になればいくらでも差なんて埋められてしまう。歳の差婚だなんていうのも珍しくない。年下ならその相手との差の分、自分が頑張ればいいわけで。
だが……一年って、大きい。
今は、そう思うのだ。
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