俺は後輩でしかなく



 男と話していたのを見たとえば「ああ」といい「邪魔なんかじゃないのに」という。けど、俺には見せない顔をしてたじゃないか。俺はそんな言葉を飲み込む。

 かわりに出たのは「倉田先輩はずるいっす」だった。
 我慢していたはずなのに、溢れだしたそれは止まらない。




「俺のこと、全然意識してくれないんだから。俺は後輩でしかないって、嫌でも先輩が同級生と喋っているのを見ると思う」



 何いってんだ、俺は。
 せっかくここまできたのに、壊してしまあう。親しいままじゃなくて、と思っていたのに、いざ変化するとなるとなんだか怖い。普通に話せなくなってしまわないかと、俺は思う。
 驚いて黙っていたままの先輩は、見た通りさっぱり、だったらしい。

 ただ、いるだけじゃだめで。
 ただの後輩としてじゃなくて。
 親しくなりたかった。先輩が、同級生たちに素で話すように、俺にも素で話してほしくて、いろんな表情を見せてほしかったのに。
 そして、ただの人懐こい後輩じゃなくて……。




「―――すんません」




 言い出したのは俺で、勝手に終わらせ逃げたのも俺。
 すげぇ、かっこわるい。
 かっこわるすぎるだろ、俺。
 走るようにして逃げて、スピードが落ち、やがて止まる。一年、一年か。繰り返すそれはどうしようもない事実。そして先輩は数ヵ月後、卒業してしまうというのも変えようのない事実。





「一年の差なんて、後輩なんて、くそくらえってんだよ」




 そう強がるように俺がいった言葉は、いつだったか外で先輩に聞かれた大声なんかよりも小さく響く。

 言葉は誰にも聞かれることなく、後輩でしかない、というそれと共に俺の中で棘となり、痛んだ。








 
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