Dr.早瀬
「嘘ー。」
にまーっとした顔を変えずに
そう言う。
「は?」
本気で心配したんですけど。
ほんとなんなのこいつ。
むかつく。
人の良心なんだと思ってんの。
思うことがあり過ぎて
呆れてもうほんとに置いて行こうと
思って立ち上がった。
「由那。」
右手首を掴まれたせいで
動けなくなる。
それだけじゃない。
勇人のその目と声色が、
普段からは想像 出来ないくらい
真剣だった。
時間が止まったと思った。
「お前は優しいよ。」
まるで子どもに言い聞かせるみたい
だった。
「お前は優しい。
隠し切れてないから。」
そう言ってふっと笑う。
「…なんなの。
何がしたいの。
意味わかんないから。
優しくした覚えなんかない。」
いつもより早口になる。
「それに!」
勇人が何かを言いかけて、
それを言わせまいと被せて喋る。
勇人は黙ってあたしを見つめる。
「っそれに、優しい奴になんか
なりたくない!」
思わず涙が出そうになって
勇人を睨みつける。
勇人は変わらず真剣な目であたしを
見つめる。
何か言われるのが怖くて
その前に掴まれていた右手を
勢いよく振り払った。
思いのほか簡単に外れて
そのまま病棟の方に走った。
「ちょっ、おい!由那!!」
勇人の声には振り向かなかった。