Dr.早瀬


あの後、
結局あたしは何も言わなかった。

でも、研修医もそれ以上
聞いてくることはなく、
あたしが泣き止むまで病室に
いてくれた。

そして診察の時間だからと出て行った。

午後の検査も終わり、
ご飯も食べ終わった。

ぼーっとしていた時。

コンコンっ

「由那さん?」

一気に心臓が跳ねた。

「入るぞ。」

好きだと自覚したものの、
どういう態度を取ったらいいのか
分からない。

ガラガラ

あれこれ考えていたら扉が
空いて、早瀬先生が入ってきた。

「な、に、暇なの?」

不自然だ。

「んなわけねーだろ。」

呆れたように笑う。

好きだと自覚してしまった以上
その顔にすらきゅんと胸が鳴る。






ーーーーー乙女か。


「っ、お医者さんも大変ですねー。
患者さんみんなに気を遣わなきゃ
いけないですもんねー。」

そのことに気づかれたくなくて、
咄嗟に言葉を紡ぐ。


「…」

研修医が何も言わないから
シーンとなり、

その空間が居心地 悪い。

「あ、でもそっか。
お仕事ですもんね。
仕方ないですよね、こっちだって
お金 払ってるんだから。」

言葉は次から次へと出て来る。

「…」

それでも研修医は何も言わない。

ただただ、じっとあたしを見てる。

この目は、真相を探ってる目だ。

「っあ、なに、図星ー?
サイテー。」




…何か言ってよ。







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