Dr.早瀬

「お母さんが見えたぞ。」

勇人に一瞬 目を向けた研修医は
いつもより少しだけ、声が低かった

「…じゃあ俺 戻るわ」

「…え、あ、うん」

研修医の方を見ながら言うから
どっちに言ってるのか
一瞬 分からなかった

けど話の内容と口調からして
あたしに言ってるのは明確で

戸惑いながらもそう答えた。

紛らわしいな、と病室から出て行く
勇人の後ろ姿を睨んでいたら

「この間 泣いていた原因?」

「え?」

研修医の方を見ると、
あたし同様、勇人の背中を見つめてて

見方によったら
睨んでるようにも見える

「あいつ、
前にお前が泣いてた原因?」

今度はあたしを見つめてきた

「け、ん、しゅうい?」

「あ?」



今日は一段と機嫌が悪い。




「なんか、嫌なことでもあったの?」

いつもと明らかに立場が逆転してる、

「っち、はあ」

いきなり目を見開いたかと思うと、
視線をふいっと逸らして

舌打ちをしてため息をつかれた。

え、何。

あたし何かした?





「なによ、むかつく。」

あたし何もしてないし。



「ああ、悪い。」

言葉の割には不機嫌なままだ。


え、なんなの。
扱いにくいわこの人。

「そんな顔すんなよ」

どんな顔よ。失礼な。

コンコンっ
ガラガラっ

「由那ー!」

一応のノックはしながらも
返事を聞かずにガサガサと
入ってきたのは久しぶりのお母さんで

それノックの意味あるの?

そんなことを聞く暇もないぐらい
勢いよく抱きつかれた

右横に立ってる研修医をちらっと
見ると、先ほどの不機嫌な顔はなく、
表の顔になっていた。




なんだったの。









< 45 / 53 >

この作品をシェア

pagetop