Dr.早瀬

コンコンっ


え?誰?
お母さん?
忘れ物かな?


「はーい!
なあに?忘れ物ー?」

先程の声よりもワントーン高い
自分の声。

ガラガラっ



「ーーっ!」


なんで?


入ってきた人は予想外の人物で。

「…何か。」



今度は、思ったよりも冷静な自分が出た。

我ながら器用だなと思う。





「お母さんが帰るって挨拶来てくれたから。」



え、だからなに。


あまりに会話が成り立ってなくて



今のあたしの顔はきっと間抜けで、
きょとんとしてるはず。



「寂しい思いしてるかな、と思いマシテ。」






…え?

病室に入り、ポケットに手を突っ込みながらゆっくりと近づいてくる研修医は、更にあたし黙らせる。


「でも来て正解だったな。」



優しい表情で見つめられ、
思わず勘違いしそうになる。



「入ってきた時のお前、
不安で仕方ないって顔してた。」



悪戯っ子みたいな顔しながら
優しく頭を撫でられる。



「っ、気安く、触らないでっ」









あたしは、

どこまでも素直じゃない。





顔は見なくてもわかるほど
暑くて布団を握りしめた両手に目をやる。





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