Dr.早瀬
「前にも言ったと思うけど、
あたし患者だよ。」
「それがなんだよ。
お前は患者の前に、澤井由那だろ。」
「え?」
「お前は、俺の患者っつー前に、澤井由那っていう1人の人間だろーが。それ忘れてんなよ。」
ひゅっと息をのむ音が聞こえた。
もちろんあたしの。
そうだーーーー。
小さい頃から入退院、通院を
繰り返して、患者さんとして
扱われることが多かったあたしは
悲観してた。
あたしはかわいそうだと。
研修医に言われた一言で
色んな気持ちが混ざって
言い表せない感情がお腹から
這い上がってくる。
「…気になる。お前のこと。」
え…
「生意気で口悪いお前が。
親には気を遣うお前が。
たまに、子どもみたいな顔するお前が。
色々背負いすぎてるお前が。
全部、気になんだよ。」
真っ赤な顔は、
研修医からの驚きの言葉によって
簡単に晒されてしまった。
「なに、言って、んの。
あた、しとあんた、は 「医者と患者だ。」
あたしが言おうとした言葉を
被せて言う。
「分かってるなら、「でも、」
真剣な目を向けてこっちを見る。