Dr.早瀬

「研修医…」

「…早瀬だって。」


研修医は苦笑いでそう答えた。

そしてあたしのところまで来ると
隣に座る。

あたしは少し左側に移動する。

研修医は何も言わない。

「…なによ。」


研修医がちらっとあたしの方を見る。

「お説教なら聞かないよ。」

さっきまでいた子どもたちの方を
見ながらそう言うと、
子どもたちはもういなくなっていた。

帰ったのかな。

そして、お母さんの顔が
思い浮かぶ。

「ふっ
子供かよ。」




ーーこいつ笑った。

腹立つ。



研修医を睨む。


多分こっちが本性だろう。


研修医は、もうあたしの方を
向いていなくて

「説教しにきたわけじゃねーよ。」

…なんなのこいつ。

「…ごめんなさい。
さっきは、言い過ぎた、かも。」

なんとなく、
謝らなきゃって思って
謝罪を口にしたけど、
やっぱり素直には謝れなかった。

でも研修医は

「ははっ
いいえ。」

笑ったあとは真面目な顔してそう答えた。

「まあ、研修医呼びは
やめてほしいですけど?」

あたしの顔を覗き込むようにして
悪戯な笑顔で言う。

すっと立って、
地面を見たままのあたしに

「病室に戻るぞ。
そろそろ帰らないと、
ほんとにお母さん心配してるから。」

あたしはその言葉に素直に
従って、病室に戻った。

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