初恋ラジオ
4
「名前が同じだったから、まさかとは思ったけど・・・・ほんとに麻ちゃんだったから、ちょっとびっくりしたよ」
「びっくりしたのはこっちだよ!こんな所で晃ちゃんに会えるなんて!!」
そう言った麻美に対して、晃介は、何故か申し訳なさそうに眉を寄せると、不意に、「ごめん」と謝ったのである。
麻美は、きょとんと首を傾げながら、そんな晃介の端整な顔を、幾度も瞬きしながら見つめやった。
「なに?なんで謝るの?」
晃介は、困ったように唇をもたげて、言葉を濁しながらこう答えたのである。
「いや・・・・発明家には、なれなかったから・・・・結局、宅配ドライバーに納まっちゃったし」
その言葉に、麻美は、思わず笑った。
「晃ちゃんの夢だったんだもんね、ノーベル賞を取れるぐらいの発明家になるの」
「途中で挫折しちゃったよ」
そう答えて、晃介も笑った。
手作りラジオから、初めて音が聞こえてきたあの時のように、二人は、思い切りその場で笑った。
魔法の手は、今や、沢山の人に大切な荷物を届けるための手になり、そして、あの頃より、ずっと大きくて、ひどく頼りがいのある手に変わっていた。
一際笑った後、麻美は、涙でにじんだ目を片手で擦りながら、大人になった晃介にこんなことを聞くのである。
「ねぇ、晃ちゃん・・・・・あの約束、まだ覚えてる?」
晃介は、未だ可笑しそうに肩を揺すりながら、片手にもっていたキャップを被り直して、こう答えた。
「覚えてるよ。だけどさ・・・・発明家にはなれなかったから、今更無効だよな」
「・・・結婚は?」
「してないよ。今も色々作ってるから、こんな変な趣味に付き合ってくれる人なんか、なかなかいなくてさ」
「そう、なんだ」
「麻ちゃんは・・・・・苗字変わってないみたいだから」
「うん、独身」
「そっか・・・・彼氏は?」
「今はいないよ」
二人は、顔を見合わせてもう一度笑った。
20年ぶりの再会。
そして、二人揃って独身。
随分と面白い偶然が重なったものだと、麻美はしみじみ思う。
だけど、こんな偶然、一生に一度あったところで、神様は怒ったりしないはずだ。
「晃ちゃん、今、“魔法の手”で何作ってるの?」と麻美が聞くと、晃介は、可笑しそうに笑いながら「ロボット」と即答した。
麻美は、きょとんと目を丸くして、思わず聞き返してしまう。
「ロボット!?」
「そう、二足歩行できる小さなやつ」
「なんだか・・・・晃ちゃんらしい!」
「そうかな?」
「うん、それ完成したらあたしにも見せてよ」
「いいよ・・・・いつになるかは判らないけど」
少年のような笑顔で、晃介はそう言う。
まだ子供であったあの頃のように、麻美も笑った。
「まだ、ラジオの作り方、覚えてる?」
「ああ、ゲルマニウムラジオのこと?そうだなぁ・・・大体なら・・・でも、20年も前に作っただけだからな」
片手でキャップのつばを直しながら、僅かばかり困ったような顔つきで、晃介はそう答えた。
麻美は、ニッコリと笑って見せると、20年前、小学生だった頃に聞いた、あの手作りラジオの音を鮮明に思い出しながら、こう言ったのである。
「また、あの音聞きたいな。凄い雑音の入ったラジオの音。晃ちゃんの手、本当に魔法みたいだった。何でも作れる手だった」
「魔法の手じゃなくて、もう、おっさんの手になっちゃったよ」
「なにそれ!じゃぁさ、そのおっさんになった手で、また作ってよ、あのラジオ」
麻美は、可笑しそうに笑いながらそう言った。
「作れるかなぁ?でも・・・また挑戦するのも、悪くないかな。雑音ばっかのラジオだけど」
晃介もまた、笑いながらそう返答したのである。
それは、初夏の日差しが差し込む午後の事、この日が、あのラジオを作った日付と同じであったことを、まだ、二人は知らないでいた。
思いもよらない奇跡が起こった五月のウィークデイ。
子供の頃に交わした“あの約束”は、心の奥にしまった二人だけの秘密である。
~END~
「びっくりしたのはこっちだよ!こんな所で晃ちゃんに会えるなんて!!」
そう言った麻美に対して、晃介は、何故か申し訳なさそうに眉を寄せると、不意に、「ごめん」と謝ったのである。
麻美は、きょとんと首を傾げながら、そんな晃介の端整な顔を、幾度も瞬きしながら見つめやった。
「なに?なんで謝るの?」
晃介は、困ったように唇をもたげて、言葉を濁しながらこう答えたのである。
「いや・・・・発明家には、なれなかったから・・・・結局、宅配ドライバーに納まっちゃったし」
その言葉に、麻美は、思わず笑った。
「晃ちゃんの夢だったんだもんね、ノーベル賞を取れるぐらいの発明家になるの」
「途中で挫折しちゃったよ」
そう答えて、晃介も笑った。
手作りラジオから、初めて音が聞こえてきたあの時のように、二人は、思い切りその場で笑った。
魔法の手は、今や、沢山の人に大切な荷物を届けるための手になり、そして、あの頃より、ずっと大きくて、ひどく頼りがいのある手に変わっていた。
一際笑った後、麻美は、涙でにじんだ目を片手で擦りながら、大人になった晃介にこんなことを聞くのである。
「ねぇ、晃ちゃん・・・・・あの約束、まだ覚えてる?」
晃介は、未だ可笑しそうに肩を揺すりながら、片手にもっていたキャップを被り直して、こう答えた。
「覚えてるよ。だけどさ・・・・発明家にはなれなかったから、今更無効だよな」
「・・・結婚は?」
「してないよ。今も色々作ってるから、こんな変な趣味に付き合ってくれる人なんか、なかなかいなくてさ」
「そう、なんだ」
「麻ちゃんは・・・・・苗字変わってないみたいだから」
「うん、独身」
「そっか・・・・彼氏は?」
「今はいないよ」
二人は、顔を見合わせてもう一度笑った。
20年ぶりの再会。
そして、二人揃って独身。
随分と面白い偶然が重なったものだと、麻美はしみじみ思う。
だけど、こんな偶然、一生に一度あったところで、神様は怒ったりしないはずだ。
「晃ちゃん、今、“魔法の手”で何作ってるの?」と麻美が聞くと、晃介は、可笑しそうに笑いながら「ロボット」と即答した。
麻美は、きょとんと目を丸くして、思わず聞き返してしまう。
「ロボット!?」
「そう、二足歩行できる小さなやつ」
「なんだか・・・・晃ちゃんらしい!」
「そうかな?」
「うん、それ完成したらあたしにも見せてよ」
「いいよ・・・・いつになるかは判らないけど」
少年のような笑顔で、晃介はそう言う。
まだ子供であったあの頃のように、麻美も笑った。
「まだ、ラジオの作り方、覚えてる?」
「ああ、ゲルマニウムラジオのこと?そうだなぁ・・・大体なら・・・でも、20年も前に作っただけだからな」
片手でキャップのつばを直しながら、僅かばかり困ったような顔つきで、晃介はそう答えた。
麻美は、ニッコリと笑って見せると、20年前、小学生だった頃に聞いた、あの手作りラジオの音を鮮明に思い出しながら、こう言ったのである。
「また、あの音聞きたいな。凄い雑音の入ったラジオの音。晃ちゃんの手、本当に魔法みたいだった。何でも作れる手だった」
「魔法の手じゃなくて、もう、おっさんの手になっちゃったよ」
「なにそれ!じゃぁさ、そのおっさんになった手で、また作ってよ、あのラジオ」
麻美は、可笑しそうに笑いながらそう言った。
「作れるかなぁ?でも・・・また挑戦するのも、悪くないかな。雑音ばっかのラジオだけど」
晃介もまた、笑いながらそう返答したのである。
それは、初夏の日差しが差し込む午後の事、この日が、あのラジオを作った日付と同じであったことを、まだ、二人は知らないでいた。
思いもよらない奇跡が起こった五月のウィークデイ。
子供の頃に交わした“あの約束”は、心の奥にしまった二人だけの秘密である。
~END~