二番目の恋人
「飛行機ならアメリカなんて近いもんだよ」
成田空港で翔が言ったのを思い出す。
あの時も私は、本心をぶつけなかった。曖昧に笑って「そうだね、近いよね」と答えた。
いつもと同じ澄んだ瞳をまっすぐに私にむけている翔に
「私にはアメリカは遠いよ。翔との距離はどんどん遠くなるよ」
と言えなかった。
アメリカに旅立つ翔は、シンプルな黒のスーツに薄いパープルのYシャツ、同系色のストライプのネクタイ。どこからどうみてもビジネスマンといった姿。
私はと言うと、あの日も今日と同じ。スニーカーを履いていた。
ジーンズにスニーカー。軽く羽織っていたコートだけがかろうじて人を見送るのにふさわしい感じだった。