BEAST POLICE
深夜。

高級住宅街、そのガレージから一台の車が発進しようとしていた。

TVRサーブラウ。

イギリスのTVRが製造・販売していたクーペである。

名前の由来はギリシア神話に登場する怪物『ケルベロス』から。

かなりの大排気量、高出力エンジンで、軽量ボディと相まって、操作を誤るとスピンすら起こりかねない。

また最高速は270キロ以上とかなりの高性能ぶりである。

その為、素人には到底扱える代物ではない。

そんな車に乗るのは、まだ二十歳そこそこの若者。

言うまでもない、彼が轢き逃げ犯のドライバーだった。

とても三つ首の地獄の番犬を乗りこなせるようには見えなかった。

彼は運転席で呟く。

「前のTVRタスカンはフィーリングに合ってなかったんだ。だから僕の言う事聞かないでオーバーステアを起こした…あのボロ車め、不愉快な思いさせやがって」

あくまで車の性能であり、自身の無謀な運転による事故ではないという言い草。

人一人が死亡する事故を起こしておきながら、彼は全く反省していない。

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