ドロップ・ダスト【完】
こちらに背を向けたままのお雛様は私の存在に気付いていないようだ。
これは普段恐れ多くて中々お雛様に接近できずにいる私へ、神が与えてくれた絶好のチャンスだと確信した。
私は声を掛けようと一歩踏み出す。
しかし彼の予期せぬ行動を前にして、喉まで出かけていた言葉は息と共に呑み込む他ならなくなったのだ。

ビリイイイィ。紙の破ける音が空間を裂く。
動いている両手が何をしているかは、悲しきかな安易に想像できた。
手動シュレッダーを発動させたお雛様の動きは止まらない。
ビリビリと嫌な音が鼓膜を刺激し、私はみるみる自分の顔が青ざめていくのを感じた。


「……はぁ~……」


小さな溜め息が聞こえた後、お雛様の手元から紙吹雪がそよ風によって宙に舞った。
人様からいただいた手紙を破った挙句ポイ捨てだなんて、モラルの欠片もあったもんじゃない。

これを行っているのが、あろうことかみんなの憧れの対象、泣く子も笑うお雛様だというのだから、一瞬夢を見ているのではないかと自分の脳を疑った。
それか後ろ姿だけ超似ている別人とか。いやでも、そんな生徒知らないし、ファンがいるくらいだから本人で間違いだろう。私はあまりのショックにゴミ袋をその場に落としてしまった。
そうしたことでようやくこちらを振り返ったお雛様と視線が交わる。
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