ドロップ・ダスト【完】
「ったく、うるせー女だな。おい、耳の穴かっぽじってよく聞け。今お前が見たこと、もし他言したらタダじゃおかねえから」


ドスの利いた声でそう言い残し、立ち去ってしまったお雛様。
私はというと呆然としてマネキンの如く同じポーズのまま立ち尽くしていた。
しばらく瞬きと息をするのが精一杯なくらい、その場から動く気になれなかった。

……どうしよう、タダじゃおかないって……股裂きの刑?はたまた串刺しの刑?
グロテスクな方向に思考が転ぶのも無理はない。
あの眼は人を平気で殺めそうなヤクザに近いものがあった。

言い触らさなければ何も問題無いとは信じたいけど、そもそもこんな衝撃的な出来事を自分だけの胸の内に秘めておくという行為に、モヤモヤとかウズウズが募るというか。秘め事抱えるの苦手なんだよなぁ私。
あとお雛様の二面性を知ってしまった自分だけ損しているみたいなのが、非常に不本意で仕方がない。まるで仲間外れにされている気分だ。

いくら“私だけ”という限定事項言えども、こんなマイナスの面を見せつけられちゃ、みみっちい優越感に浸ることもできない。
これが仮に、パーフェクトそうに見えるお雛様は実は虫があまり得意じゃない、とかならまだ可愛げがあるしキャラに合ってなくもなかったけど、あんなゲスい部分を見せられても好感度ガタ落ちも甚だしいところである。騙されていた感が否めない。

なんだあれ、あんなの私の知ってるお雛様じゃない。
てかもう様付けで呼んでいられるかってんだ。雛沢で良いよ雛沢で。
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