【リメイク前】大きな桜の木の下で【完】
……桜夜くん、行っちゃっただろうなぁ。

こんなところでヘマするなんて、私って肝心な時にこれだからやんなっちゃうよ……。

自分の情けなさに下唇を噛み締める。

泣くのを堪えつつも立ち上がろうとした私だけど、差しのべられた手に瞳を見開いた。

ゆっくりと顔を上げて腕の先を追えば、そこにいたのは複雑そうに眉を下げた桜夜くんだった。

唇を微動させて紡いだ問いかけが、長い会話の始まりを告げる。


「……どうして黙っていなくなったの?」

「こっちにも色々事情があんだよ」

「知ってる」

「……寺島かよ」

「ちゃんと話してほしかった」

「わりぃ……」

「…………」

「……あのさ、千鶴の描いた夜桜見たんだけど……なんつーか、すげー綺麗だった」

「うん」

「ありがとな」

「……うん」

「でもどうせならもっとゆっくり見たかった」

「ならどうして逃げたの」

「そりゃお前があんな血相で走ってきたからだろ」

「そうやって人のせいにするんだ」

「ははっ……」
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