【リメイク前】大きな桜の木の下で【完】
またもや涙が滲んできた私がその場から走り去ろうとしたら、まるで野生動物のような身軽な動作で木から下りてきた曽根くんは、すとんと私の隣に着地した。

驚いた私がびくりと身を震わせ警戒心を露わにすると、曽根くんは「やる」と食べかけの焼きそばパンを差し出してきた。

やるってもう一口分しかないし。しかももう端っこの焼きそばない部分じゃんか。ソースすら染み込んでない部分だよ。

それでも私は、もしかして励ましのつもりなのかな。曽根くんて案外良い人?なんてプラスに捉えてしまうわけで。


「ゴミ捨てといて」

「それが狙いですか」


じゃあなと手をひらひらさせながら去りゆく後ろ姿に呆れながら、私はパンを口の中に含んだ。

今のやり取りで少しだけ失恋の傷が軽くなったのであれば、私は意外と単純かつポジティブな人間なのかもしれない。

春風に吹かれた桜の花びらが頬を掠める。

私の恋の花は無残にも散ってしまったけれど、頭上で満開の桜の花を見ていたらまた前向きに頑張れそうだって、そう思えることができたんだ。

なんだ、やっぱり私ってば単純じゃん。
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