Dream doctor~心を治す医者~
                                           *


    元気良く扉を開き、屋敷を訪ねてきたのは、浩史の妹である松川陽奈だった。
   
    浩史と同じ色の淡い茶髪を髪留めで上にまとめ、今の季節にぴったりな春らしいワンピースを着ていた。

「おぉー!    陽奈さん!    お久しぶりですーー!    」

    陽奈を見て目を輝かせたカレンは、手に持っていたグラスを浩史に押し付け、腕を上に大きく挙げて駆け寄って行った。

「カレンちゃん!    久しぶりー!    元気にしてた?    」

    嬉しそうに抱きつくカレンの頭を撫で、にこにこしている陽奈。
    彼女は、カレンより頭一つ分ほど背が高い。こうしているとまるで姉妹のようだ。カレンも陽奈によく懐いていた。

    ―そういえば今日来るってメールで言っていたっけ。

「陽奈ー!    聞いてくれよー、直樹がいじめるんだー!    」

    持っていたグラスをソファーに座る直樹に無理矢理押し付け、カレンと同じように陽奈に抱きつく浩史。
    相変わらずの調子の兄に苦笑いを浮かべる妹。久しぶりの光景に、ふ、と笑みを零した。

    穏やかな昼の風景。ずっとこの風景を見ていたい。心からそう思う。しかし――
    "獏"がいる限り、この平穏な昼間も、いつ音を立てて崩れるか分からない。

    ―次こそは絶対に仕留める……。必ず………… 

「直樹さん、これちょっとしたものですけど……」

    気が付けばいつの間にか陽奈が目の前に立っていた。可愛らしい紙袋を差し出している。
   
    ソファーから立ち上がり、陽奈と向かい合う。

「あぁ、ありがとう。いつも悪いね」

    にこりと微笑み、紙袋を受け取った。陽奈もはにかんだようににこりと微笑んだ。

    ―素直で可愛らしい子だな。今でも風花のことを気にしているんだろうか……。

「陽奈ー、俺達の分はー?    」

「お兄ちゃんにはありません。これはカレンちゃんと直樹さんの分!    」

    当然だというように澄まして言った。「えーーー!    」と浩史からの大ブーイングが起きる。

    膨れっ面を浮かべ、傍にいるカレンに同意を求める。

「むむむ~……ねぇカレンちゃんどう思う?この妹らしからぬ行い……ってちょっと!    」

    自分の分もお土産があることを知ったカレンは、浩史のことをあっさりと裏切り、いつ移動したのか直樹の隣にちょこんと立っていた。

「早っ!!    裏切るの早っ!!    」

    驚きに満ちた表情を浮かべる浩史。直樹の隣で、悪びれる様子もなく紙袋の中を覗き込むカレン。
    二人を見て、穏やかな笑み浮かべる直樹と陽奈。


     穏やかな昼下がり。そんな居心地の良い時間を切り裂くように、電話のベルがけたたましい音を立てて鳴り響いた―――。

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