Dream doctor~心を治す医者~
*
外観とは似つかないほど暖かい雰囲気の小綺麗な廊下を通り、緩く後ろに髪を束ねた栄子の後に付いて歩く。
インターホンを鳴らした直樹達の前に現れたのは、整った顔立ちをしているものの疲れきった表情を浮かべた、森野栄子その人だった。
夫が眠り続けている事で、お金が入らず、生活も苦しいのだろう。疲れるのも当然かもしれなかった。
直樹達四人は居間ではなく、そのまま夫婦の寝室へと通される。
「どうぞ。今お茶煎れてきますね」
四人を残し、栄子は部屋を出ていった。
窓辺に備え付けられたダブルベッド。ベッドの南には、大きなテレビ。その前に緑のソファー、ガラスのローテーブルが置かれていた。
寝室らしい、シンプルな家具の配置だった。
栄子が部屋から出て行ったのを確認すると、浩史は背中に背負っていたリュックを床に下ろした。
「ふぅ。重い重い……っと」
鞄を開け、中身を取り出す。パソコンを立ち上げるのに少しだけ時間がかかるので、今のうちにしておこうというのだろう。
準備をしながら、浩史はソファーへと腰掛けた。
その様子を彼の側で眺めていた直樹は、ふと気付いたようにダブルベッドに目をやる。その上には長身の男が横たわっていた。
―彼が夫か……。
「ふむぅ、なかなか男前ですなぁ! ボサボサ頭のマスターとは大違い……」
深い眠りについた男をベッドの側から覗き込んでいたカレンは、ぼそりと呟いた。
―余計なお世話だよ……。
カレンが彼を男前だというのも分かる。長身でその上、それなりに綺麗な顔立ちをしていたからだ。
しかし、自分が彼と比べられるのはどうも釈然としない。
突然の飛び火に、直樹は深いため息をついた。
「お待たせしました」
栄子が戻って来たようだ。両手で支えたお盆の上に、紅茶が三つ載せられていた。
「どうぞ」
ソファーに座る浩史の前に一つ紅茶を置いた。残りの二つは並べるようにして隣へと置く。
「夫は……"獏"に取り憑かれているんでしょうか……」
お盆で前を隠すようにして、彼女は不安そうな目で直樹を見つめた。
「どっちにしろ、とりあえず中に入ってみないと何とも言えませんね……。もうそろそろ準備も終わる頃です」
ちらとソファーに座る浩史に目をやる。誘われるように栄子も目を向けた。
「よーし。準備完了!いつでもOKだよー」
ちょうど終わったようだった。マインドリカバリーのヘルメットを持ちながら、彼は親指を立てた。
Dream doctorを見るのが初めての栄子は、これから何が起こるのかとキョロキョロしている。
直樹はヘルメットを二つ受け取り、長いコードで繋がれた"それ"を、ベッドの側に立つカレンへと放った。
上手いこと受け取ったカレンは、何も言わずこくりと頷き、頭に被る。続けて直樹もヘルメットを被り、そのまま床に座り込んだ。
深く息を吸い込み、精神を整える。ゆっくりと目を閉じ、余計な考えを振り払った。
「あ、あの……そんなところに座って、これから何を……? 」
二人が突然座り込んだのを見て、不審に思ったのだろう。心配そうに栄子が浩史に問いかける。
「大丈夫、大丈夫! これからですから。面白いものを見せてあげますよ♪ 」
パソコンに視線を戻し、素早くキーボードを打ち込んでいく。
キーボードを叩く音が、頭に流れ込んでくる。全意識を脳へと集中させた。
「さぁ、送信! っと」
浩史は掛け声とともに、カシャンと最後にキーボードを打ち込んだ。
途端、マインドリカバリーから作られた特殊な電気信号が、コードを光の速さで伝って二人の脳を刺激する。
―直樹……メルを助けて―――
意識を失うその瞬間、見知らぬ声が頭の中に響きわたった。可憐な、鈴の音のような少女の声だった。
その声が一体誰のものかなんて、考える暇もなく、直樹は夢の中へと吸い込まれていった…………。
外観とは似つかないほど暖かい雰囲気の小綺麗な廊下を通り、緩く後ろに髪を束ねた栄子の後に付いて歩く。
インターホンを鳴らした直樹達の前に現れたのは、整った顔立ちをしているものの疲れきった表情を浮かべた、森野栄子その人だった。
夫が眠り続けている事で、お金が入らず、生活も苦しいのだろう。疲れるのも当然かもしれなかった。
直樹達四人は居間ではなく、そのまま夫婦の寝室へと通される。
「どうぞ。今お茶煎れてきますね」
四人を残し、栄子は部屋を出ていった。
窓辺に備え付けられたダブルベッド。ベッドの南には、大きなテレビ。その前に緑のソファー、ガラスのローテーブルが置かれていた。
寝室らしい、シンプルな家具の配置だった。
栄子が部屋から出て行ったのを確認すると、浩史は背中に背負っていたリュックを床に下ろした。
「ふぅ。重い重い……っと」
鞄を開け、中身を取り出す。パソコンを立ち上げるのに少しだけ時間がかかるので、今のうちにしておこうというのだろう。
準備をしながら、浩史はソファーへと腰掛けた。
その様子を彼の側で眺めていた直樹は、ふと気付いたようにダブルベッドに目をやる。その上には長身の男が横たわっていた。
―彼が夫か……。
「ふむぅ、なかなか男前ですなぁ! ボサボサ頭のマスターとは大違い……」
深い眠りについた男をベッドの側から覗き込んでいたカレンは、ぼそりと呟いた。
―余計なお世話だよ……。
カレンが彼を男前だというのも分かる。長身でその上、それなりに綺麗な顔立ちをしていたからだ。
しかし、自分が彼と比べられるのはどうも釈然としない。
突然の飛び火に、直樹は深いため息をついた。
「お待たせしました」
栄子が戻って来たようだ。両手で支えたお盆の上に、紅茶が三つ載せられていた。
「どうぞ」
ソファーに座る浩史の前に一つ紅茶を置いた。残りの二つは並べるようにして隣へと置く。
「夫は……"獏"に取り憑かれているんでしょうか……」
お盆で前を隠すようにして、彼女は不安そうな目で直樹を見つめた。
「どっちにしろ、とりあえず中に入ってみないと何とも言えませんね……。もうそろそろ準備も終わる頃です」
ちらとソファーに座る浩史に目をやる。誘われるように栄子も目を向けた。
「よーし。準備完了!いつでもOKだよー」
ちょうど終わったようだった。マインドリカバリーのヘルメットを持ちながら、彼は親指を立てた。
Dream doctorを見るのが初めての栄子は、これから何が起こるのかとキョロキョロしている。
直樹はヘルメットを二つ受け取り、長いコードで繋がれた"それ"を、ベッドの側に立つカレンへと放った。
上手いこと受け取ったカレンは、何も言わずこくりと頷き、頭に被る。続けて直樹もヘルメットを被り、そのまま床に座り込んだ。
深く息を吸い込み、精神を整える。ゆっくりと目を閉じ、余計な考えを振り払った。
「あ、あの……そんなところに座って、これから何を……? 」
二人が突然座り込んだのを見て、不審に思ったのだろう。心配そうに栄子が浩史に問いかける。
「大丈夫、大丈夫! これからですから。面白いものを見せてあげますよ♪ 」
パソコンに視線を戻し、素早くキーボードを打ち込んでいく。
キーボードを叩く音が、頭に流れ込んでくる。全意識を脳へと集中させた。
「さぁ、送信! っと」
浩史は掛け声とともに、カシャンと最後にキーボードを打ち込んだ。
途端、マインドリカバリーから作られた特殊な電気信号が、コードを光の速さで伝って二人の脳を刺激する。
―直樹……メルを助けて―――
意識を失うその瞬間、見知らぬ声が頭の中に響きわたった。可憐な、鈴の音のような少女の声だった。
その声が一体誰のものかなんて、考える暇もなく、直樹は夢の中へと吸い込まれていった…………。