恋のはじまりは曖昧で
「じゃあ、帰りは一緒に帰ろっか」
「へ?」
突然のお誘いに変な声が出た。
田中主任と一緒に帰るなんて滅相もない!
「請求書出してくるから、少し待っててもらうことになるけど」
「大丈夫です。電車で戻りますから」
「まぁ、いいじゃん。同じ会社に帰るんだし。あそこのコーヒーショップで待っててくれる?三十分ぐらいで終わると思うから」
そう言って、反対側の道路沿いにあるコーヒーショップを指さした。
「でも……」
「高瀬さん、先輩の言うことはちゃんと聞こうか」
小さく口角を上げ、悪戯っ子のような顔をする。
先輩というワードを言われると、私は頷くことしか出来ない。
「高瀬さんの番号、さっき登録しておいたから終わったら連絡する」
そう言って現場事務所へと足を進めていく。
思いがけず、田中主任のスマホに私の番号が登録されることになった。
私は時間を潰す為、仕事中なのにいいのかなと思いながらもコーヒーショップへ向かった。
カフェラテを注文し、席に座り一息つく。
周りを見るとサラリーマンがノートパソコンを開き仕事をしていたり、学生が教科書とノートを広げ必死にシャーペンを動かしている。
私はスマホを取り出し、いつも暇があればやっているパズルゲームを開いた。