恋のはじまりは曖昧で
「あった」
ようやく元の場所へすべてのファイルを戻した時、資料室のドアがゆっくりと開いた。
静かな空間にコツコツと人の足音が聞こえる。
誰が入ってきたんだろう。
私が今いる場所は資料室の一番奥だからすぐに確認することは出来ない。
「お、高瀬さんか。お疲れさん」
営業部の棚と棚の間から顔を覗かせてきたのは田中主任だった。
「お疲れさまです」
「こんな時間に資料室にいるってことは、まだ帰れそうにないのか?」
「いえ、もうファイルを片付けたので帰ります」
返事をした瞬間、資料室の電気が消えて真っ暗になった。
「キャッ」
何これ、どういうこと?
もしかして停電?
そういえば、さっき電気がチカチカ点滅していた。
咄嗟にしゃがみ、膝に顔を埋める。
私は暗いところが苦手だ。
寝る時も真っ暗では寝れないから、ベッド脇のナイトテーブルに置いてるライトは必ずつけている。
一人パニックになっていると優しい声が聞こえ、ゆっくりと顔をあげると田中主任がそばに立っていた。
その手にはスマホが握られていて、ライトの明かりで私を探してくれていたみたいだ。
「高瀬さん、大丈夫?」
「あ、はい。何とか……」
そう答えると、スッと目の前に田中主任の手が伸びてきた。
えっと、これは手を取ってもいいということなんだよね。