恋のはじまりは曖昧で

おずおずと手を差し出すと、グイと力強く身体を引き上げられた。

「わっ、」

だけど、思ってた以上に引き上げる力が強く、勢い余って田中主任の胸に飛び込んでしまった。
ダイレクトに田中主任のスパイシーな香水の匂いが鼻をくすぐり、その香りに心臓が高鳴った。
以前、会議室で抱きしめられた時よりドキドキしてしまうのはなぜだろう。

「すみませんっ」

自分の気持ちの変化に戸惑い、焦りながら田中主任と少し距離を取った。

「そんなに慌てなくてもいいのに。高瀬さん、暗いところ苦手なの?」

「はい……」

「そっか。じゃあ、寝る時は電気を付けるタイプ?」

「へ?あ、はい。真っ暗だと寝れなくて」

「俺はどっちでも寝れるタイプかな」

なぜか寝る時の暗さの話になってる。

どうしてだろう?なんて首を傾げたけど田中主任が、わざとこんな話をして気を紛らわせてくれているような感じがした。
だから、真っ暗な空間でも全く怖いとは思わなかった。

「あの、停電ですかね?」

周りをキョロキョロする。
暗くて目の前の田中主任もまともに見えない。

「いや、単に蛍光灯が切れただけだと思うよ。総務に替えてもらうように言わないと……誰か残ってるかな」

「そういえば、さっき蛍光灯がチカチカ点滅してました」

ようやく冷静になり、物事が考えれるようになった。


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