恋のはじまりは曖昧で
ゲームを十分ぐらいしてから、ハッと気付く。
そういえば田中主任から電話がかかってくるんだった。
ゲームをやめ、テーブルにスマホを置いた瞬間に田中主任から着信があった。
「もしもし」
『あ、高瀬さん?田中だけど遅くなってごめん。今から出るから準備しといてくれる?』
「はい、分かりました」
電話を終え、コーヒーショップから出て駐車場で待っていると、目の前に小型セダンの車が停まる。
これはうちの会社の営業車で、田中主任が助手席の窓を開けて車に乗るように促された。
「おまたせ。さぁ、乗って」
後部座席にはヘルメットや書類が乱雑に置いてあり、私の中の田中主任のイメージが少し崩れた。
崩れると言ってもいい方に、だ。
あまりにもイケメンで完璧すぎると近寄りがたいって感じがするから、私的にはこっちの方が断然いい。
「会社の車だからちょっとタバコ臭いかも知れないけど」
「いえ、大丈夫です。お邪魔します」
私がシートベルトを締めたのを確認し、田中主任が車を走らせた。
車に乗せてもらったのはいいけど緊張する。
こういう時ってどんな話をしたらいいんだろう?
私から話しかけるにしても、会話の糸口がつかめない。