恋のはじまりは曖昧で
「そうだっけ?でも、紗彩は暇だって言ってたでしょ」
「それはそうだけど……。私、子守なんて聞いてないよ」
「さあやちゃん、ボクのこときらいなの?」
不意に虎太郎が瞳をウルウルさせながら私を見上げてくる。
そんな目で見ないでー!
「私はコタのこと大好きだよ」
「ほんと?」
「ホントだよ」
「ホラ、よかったね!紗彩お姉ちゃんが虎太郎と今日一日遊んでくれるって」
「やったー!」
虎太郎はその場でピョンピョンと飛び跳ねる。
「ということで、虎太郎のこと頼んだわよ。夕方には迎えに来るから。じゃ、郁が待ってるから行くわね。虎太郎、紗彩お姉ちゃんの言うことをよくきくのよ」
「はーい。ママ、バイバーイ」
有無を言わせず、自分の言いたいことだけ言う姉を、ただ呆然と見つめることしか出来なかった。
虎太朗はお利口さんな返事をし、エレベーターに乗り込む姉に手を振った。
「さあやちゃん、あそぼ」
「ちょっと待ってくれる?顔も洗ってないし、まだ着替えてもないから。取りあえず部屋に入ろうか」
「はーい」
虎太郎は元気のいい返事をし、部屋の中へ入った。
脱ぎ捨てた靴を揃え、虎太郎の後を追う。
今日はゴロゴロダラダラ過ごそうと思っていたのに、お姉ちゃんにハメられた!
いつも私はお姉ちゃんには敵わないんだ。