恋のはじまりは曖昧で
「あー、ボクがボタンをピッておしたい」
財布から小銭を取り出し、自動販売機に入れてから虎太郎を抱っこする。
お目当てのボタンを押すと、ガコンと落ちてきたジュースを手にご満悦な様子の虎太郎。
「コタ、あそこのベンチに座って飲もう」
「うん」
ベンチに座り、虎太郎は美味しそうにジュースを飲む。
私もお茶を飲み、一息つく。
子供の相手がこんなに疲れるとは思わなかった。
お姉ちゃん、よく子育てやってるよなと感心する。
「ねぇ、かいとにーちゃんもよぼう」
「え、海斗を?」
いきなり海斗を呼ぼうと言い出す虎太郎に驚いた。
「まえあそんでもらったときに、おにごっこしたりてつぼうグルグルしてくれたんだよ」
ニコニコと嬉しそうに話す虎太郎を見て、そういえば、と思い出した。
私の家と海斗の家は家族ぐるみの付き合いをしていた。
だから、海斗は虎太郎のことを知っているし、何度が遊んでもらったことがある。
その時のことを覚えているんだろう。
海斗は面倒見がよく全力で遊んでくれるので、虎太郎はえらく懐いている。
「でも、海斗も用事があるかも知れないよ」
「きいてみないとわからないじゃん」
虎太郎の癖に大人な発言をしてくれる。
連絡しないと拗ねそうなので、仕方なくスマホを取り出し、海斗に電話をしてみた。