恋のはじまりは曖昧で

レジを済ませ、食材とお菓子を袋に詰めてスーパーを出た瞬間、虎太郎が口を開いた。

「ボク、あるけない」

「は?何言ってんの?さっきまで歩いてたでしょ」

スーパーの中をチョロチョロと動き回ってたのは誰よ!
思わず、真顔になってしまう。

「だってあしがいたいんだもん」

今にも泣き出しそうな虎太郎。
嘘でしょー。

荷物もあってこれでおんぶするのはきついんだけど。
かといって、虎太郎は全く歩き出す気配もない。

何度か虎太郎と『歩こうよ』『あるけない』の攻防を繰り返した末、私が負けた。
当然と言えば当然だけど、子供に勝てる訳がなかった。

再び虎太郎を背負い、ガサガサとスーパーの袋を揺らしながら歩く。

虎太郎は呑気に歌を歌い出した。
虎太郎さんよ、まだそんな元気があるなら歩いてくれないかな。
日頃、私は運動とかしてないから体力があまりなく、かなりのダメージをくらっている。

しかも、スーパーから私のマンションまでは徒歩で約十分。
虎太郎をおんぶしているから更に時間がかかってしまう。

「さあやちゃんもうたってよ」

歌の催促をされてしまったけど、そんな余裕はこれっぽっちもない。

「コタ、その歌はよく分からないから歌えないよ」

息も上がってきてるから、歌っている場合ではない。
時折、虎太郎がずり落ちそうになり、足を止めては「よいしょ」と体制を整える。
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