恋のはじまりは曖昧で
いや、そもそも私から話しかけれる訳ないじゃない!
それに、上司と共通の話題なんてないよー。
もし、田中主任から話しかけられても私は浅村くんみたいに物怖じせずに話すことなんて出来ないと思う。
こういう時にコミュ力が高ければ上手く話が出来るんだろうな。
考えれば考えるほど変な汗が出る。
しかも今日は暖かいから、余計に毛穴から汗が噴き出てきそうだ。
バッグを胸に抱え、ガチガチに固まっていたら隣から柔らかな声が聞こえた。
「暑かったら窓、開けてもいいよ」
「い、いえ、大丈夫です」
あぁー!
テンパって大丈夫とか言ってしまった。
今、汗をかいてるから素直に窓を開ければよかった。
こうなったら何か涼しくなるようなことでも考えた方がいいかも。
「ホントに大丈夫?今日、暑いだろ。高瀬さんが開けないなら俺が開けるよー」
どうやら私が我慢してるのを見抜いた様子の田中主任が助手席側の窓を開けると、心地いい風が私の頬を撫でた。
「ね、開けた方がいいだろ」
「……はい、涼しいです」
ちょっと身体を窓よりに寄せ、風を浴びている私を見て主任はクスリと笑った。