恋のはじまりは曖昧で

「高瀬さん、仕事の方はもう慣れてきた?」

田中主任は運転しながらチラリと私の方に視線を向けてくる。

「はい、少しずつですけど。でも、分からないことがたくさんあって片岡さんに頼ってばかりで迷惑をかけているので……」

上手く言えないけど、営業事務という仕事にまだ自分が馴染んでいない気がする。
入社して一ヶ月ちょっとしか経ってないから仕方がないといえばそうなんだけど。

一人前になるのは当分先だ。
目の前の仕事をこなすだけで精一杯。
周りに迷惑をかけないようにしなきゃ、といつも気を張っている。
先輩たちみたいに、早く営業の人のサポートが出来るようになりたいと思う。

「それは誰しもそうだよ。最初から自分一人で何でも出来る訳ないんだから。分からないことや困ったことがあれば、遠慮せずに頼っていいんだよ。迷惑をかけてしまうと遠慮した結果、ミスすることだってあるんだから。それに、俺ら先輩は新人がミスするのは想定済みだよ。そのミスをフォローするのも先輩の役目だと思ってるから。俺だって入社したての頃は先輩社員に頼っていたし。今は覚えることがたくさんあって大変だと思うけど高瀬さんなら大丈夫!頑張れよ」

「はい、ありがとうございます」

田中主任の言葉に感動し、小さく頭を下げた。
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