恋のはじまりは曖昧で
きっと気を遣って言ってくれたんだろうけど、その言動に何か少し寂しい感じがした。
私も後を追うように立ち上がる。
「今日は美味しいご飯も食べれたし楽しかったよ。ご馳走様。また、このお礼はさせてもらうから」
「いえ、虎太郎がご迷惑をおかけしたので、お礼は大丈夫です。でも、私も楽しかったです」
田中主任とこんな風に楽しい時間を過ごせるとは思わなくて緊張したけど嬉しかった。
プライベートな話もしたし、仕事以外の田中主任の顔を見れるなんて普通に生活していたら絶対に無理だったと思う。
そう考えたら、虎太郎にあんなに振り回されたけどちょっとだけ感謝……かな。
「それじゃ、また明日。お休み」
「はい、おやすみなさい」
田中主任を見送り、ゆっくりと玄関のドアを閉めた。
振り返り、部屋を見回す。
さっきまで田中主任がそこのラグに座っていたんだよな、なんて思っていると、再びスマホが鳴った。
きっと海斗だ。
テーブルに置いていたスマホの画面を確認し、タップした。
「もしもし」
『あ、やっと出た。お前、電話くれただろ。何か用事があったのか?』
「あー、ごめんね。虎太郎が海斗と遊びたいから電話してって言うからかけたの」
『虎太郎が?そりゃ、悪いことしたな。今日は親父たちとゴルフしてたから出れなかったんだよ』
ゴルフか、きっと接待とかそういう関係なんだろう。