恋のはじまりは曖昧で
浅村くんは先輩に同行し、営業の仕方などを学んでいるみたいで、分からないことがあると積極的に聞いている。
教えてもらったことをしっかりと吸収し、どんどん経験を積んでいる。
最近は先輩社員と同行だけでなく、一人で取引先に行くこともあり、『ちょっと打ち合わせに行ってくる』なんて言いながら浅村くんは出かけていく。
そんな姿を見ると、この数ヶ月で精神的にもたくましくなってきたと思う。
それに引き替え、私は少しでも成長できているんだろうか?と考える。
営業は事務とは違い、自分がどれぐらい頑張って仕事をしているのかというのが売り上げという形で数字となって現れる。
それによって、やりがいや責任感も生まれてくるんだろう。
海斗の話を聞いたり浅村くんを見ていると、自分が置いてきぼりにされた気がしないでもない。
でも、よく考えたら人と比べるのはナンセンスだよね。
私は自分らしく、着実に与えられた仕事をこなすのみだ。
脳内で気持ちを切り替えていたら、耳にあてていたスマホから誘いの言葉が聞こえた。
『近々、飯でも食いに行こうぜ』
「そうだね。私、久々にラーメンが食べたい」
『了解、また連絡する』
電話を切るとスマホをテーブルに置き、リモコンを持ちテレビの電源をつけた。