恋のはじまりは曖昧で
さっき、会議室にいないなと思ったら電話中だったのか。
「……今日、伺います。そうですね、その時にカタログも持参します」
メモを取りながら話している。
私は自分の席に座り、パソコンの電源を入れていると電話が鳴り、条件反射で受話器に手をかけた。
「はい、花山株式会社です」
『お世話になっています。マチカワの沼田ですけど、営業の河野課長はいらっしゃいますか?』
「申し訳ございません。河野はただいま会議中で席を外しています。お急ぎなら……」
電話対応していた時、田中主任が私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「高瀬さんって、電話中か」
「どうかしましたか?私でよければやりますけど」
気を利かせてくれたのか、弥生さんが申し出た。
えっ、と思いながらも電話に集中しないといけなくて。
それでも、弥生さんと田中主任のやり取りも気になってしまうのも事実で……。
「会議に出ないといけないから悪いんだけど、ここに書いているメーカーのカタログを探してきてくれる?」
「はい、分かりました」
田中主任はメモ用紙を弥生さんに渡して会議室へ向かい、弥生さんもそのまま営業のフロアを出て行くのが視界に入った。
『……じゃあ、会議が終わったら会社の方へ電話するように伝えてもらえるかい?』
「承知しました。お電話番号の方をお聞きしてもよろしいですか?」
相手の連絡先を聞いて電話を切った。