恋のはじまりは曖昧で
まさか励ましてくれるとは思わなかった。
田中主任の言葉をしっかり胸に刻み、仕事を頑張ろうと思った。
最初は車内に田中主任と二人きりで、どうしていいか分からず緊張していた。
だけど田中主任がいろいろと話しかけてくれ、思っていた以上に会話のキャッチボールは続いた。
緊張していた車内がいつの間にか居心地のいい空間に変わっていることに気づく。
田中主任の細やかな気遣いのお陰だ。
そういえば、男の人の運転する車に乗るのってお父さん以外は初めてかも知れない。
ふと、そんなことを考えた。
お父さんの運転は年々荒くなっていて、乗っているこっちがヒヤヒヤだった。
いつも、お母さんに『もっとゆっくり走んなさいよ』なんて怒られていたっけ。
そんなお父さんとは違い、田中主任は安全運転で乗っていても安心感がある。
横目で田中主任が運転する姿を盗み見る。
鼻筋の通った綺麗な顔立ち。
さっきはヘルメットで隠れていた緩くパーマのかかったアッシュブラウンの髪の毛が風でふわりと揺れる。
その横顔に見とれていて、前の車が信号手前で急ブレーキを踏んだことに私は気付かなかった。