恋のはじまりは曖昧で

「田中主任、頼まれていた見積書、出来ました」

「ありがとう」

見積書を手渡した時、主任と私の手が触れた。
ほんの一瞬のことだったんだけど、一気に私の体温が上昇した感じがした。

だーかーらー、せっかく気を引き締めたばかりなのに!
ここから早く立ち去ろうとしたんだけど。

「高瀬さん。もしかして熱、あるんじゃないか?」

「えっ、熱ですか?ないと思いますけど」

突然、そんなことを言われ首を傾げる。
喉が痛いだけで熱っぽくはない、と思う。
それに、今、田中主任と手が触れあって熱くなったのは自覚している。

「ちょっと失礼」

そう言って、いきなり主任の手が伸びてきて私の額を触った。

「っ!!!」

「やっぱり熱い。高瀬さん、熱があるよ」

されるがまま、身動きできない私は思わず言葉を失った。

自分ではまったく気が付かないのに、他人に熱があると指摘されたのは初めてだ。
しかも、田中主任が私の額を触って確認するなんて別の意味で眩暈がしそうだ。

「あの、田中主任。高瀬さん、さっきから喉が痛そうだったし、昼ご飯も残してました。もしかしたら、体調が悪いのかなと思っていたんです」

背後から追い打ちをかけるような言葉が聞こえ、振り返ると弥生さんと目が合った。
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