恋のはじまりは曖昧で
「そうか。高瀬さん、悪いことは言わない。今日はもう帰った方がいいよ」
「私もそれがいいと思います。今週はまだ忙しいって訳じゃないから」
田中主任と弥生さんに言われ、私は仕方なく頷いた。
「そうと決まれば帰る準備をしないとね」
「原田部長。高瀬さん、体調が悪いみたいだから早退させます。ついでに、これから外回りがあるから送っていきます」
田中主任が原田部長に向かって声をかけると、心配そうな表情で私を見る。
「分かった。高瀬さん、早退届を提出しといて。田中、頼んだぞ」
「了解です」
あれよあれよという間に、私は田中主任に送ってもらう事になった。
早退届に記入して提出した後、パソコンの電源を落とし帰り支度をする。
原田部長たちに『お大事に』という言葉をかけてもらい、営業のフロアを後にした。
田中主任の営業車に乗り、私の住んでいるマンションへ向かう。
車を走らせている間、田中主任は気遣う言葉をかけてくれるけど通常通り。
私だけ無駄に緊張している。
そういえば、田中主任はイケメン御三家と言われるぐらいモテていたので、あのデコチューはたいしたことではなかったのかも知れない。
だから、あれはペットにでもするような感覚だったのかな。
自分で勝手に考えて落ち込んでいると私のマンション近くまできていた。
駐車場につくとシートベルトを外し、頭を下げてお礼を言った。