恋のはじまりは曖昧で
「私は大丈夫なので、電話に出てください」
「分かった。おとなしく寝なよ」
「はい」
じゃあ、と挨拶し玄関のドアを閉めた。
のろのろと靴を脱ぎ、無造作にバッグをラグの上に置き洗面所に向かう。
手荒いうがいを済ませると救急箱は……と、クローゼットの中を探す。
奥の方から引っ張り出し、箱を開けてみると案の定、使用期限は二年も前だった。
流石にそんな薬は飲みたくない。
かといって、わざわざ買いに行くのは面倒だ。
まぁ、熱があるといってもたいしたことはないだろう。
救急箱の隅にあった体温計を取り、脇に挟む。
しばらくして、ピピッという電子音が鳴り体温計を引き抜いた。
体温計に表示されたのは“37.7”という数字。
そんなに熱は高くはない。
だけど、さっきまで熱っぽく感じなかったのに、こうして数字で見てしまうと不思議なもので自分が病気なんだと認識してしまう。
取りあえず、寝てれば熱は下がるだろう。
立ち上がり、着ていた服を脱いでパジャマ代わりのT-シャツとハーフパンツに着替える。
ベッドで寝ようとして気付く。
そういえば、今日は海斗と晩ご飯食べに行く約束していたんだ。
まだ十五時前だし、断りの連絡をしておこう。
スマホのラインの画面を開き、『風邪を引いたので、今日はキャンセルして欲しい。ごめんね』と謝罪のスタンプと共にメッセージを送り、既読される前に眠った。