恋のはじまりは曖昧で

私がミスした時、田中主任がかけてくれた言葉に励まされた。
無理せず、人に頼ってもいいんだと気付かせてもらった。

資料室の電気が消えてしまった時、暗闇が苦手な私の手を引いてドアのところまで歩いてくれた。

そんなことを言い出したらきりがない。
些細なことに気付いてくれ、手を差し伸べてくれる。

田中主任の言葉や優しさに何度も救われた。
私にとって田中主任は尊敬する頼れる上司という存在だった。

それが、田中主任と接するうちに少しずつ私の気持ちが変化していった。

ある時、田中主任に『彼氏が誤解するんじゃないか』なんて言われて、速攻で彼氏はいないと否定した。
話の流れで田中主任に彼女がいないと分かって、なぜか安堵した自分がいたことを思い出す。

これらのことを全部引っくるめると、ある感情にたどり着いた。
私は田中主任のことが好きなんだ、と。

自分の気持ちを自覚し、明日から田中主任とどう接したらいいのか戸惑う。
まさか、同じ職場の上司に恋をするなんて思わなかった。
ベッドサイドに置いていたクッションを胸に抱き悶える。

あー、ダメだ。
これ以上考えると、さらに熱が上がりそう。

コップに入れてあったミネラルウォーターで薬を飲むと、ベッドに寝転んで目を閉じ、考えることを放棄した。
< 168 / 270 >

この作品をシェア

pagetop