恋のはじまりは曖昧で

「高瀬さん、この見積書の直しをお願いできる?この後、出掛けるから一時間後までには欲しいんだけど、」

「はい、分かりました。大丈夫です」

それだけの時間があれば出来るよね?というようなニュアンスが含まれてるよなと勝手に感じ取り、大丈夫だと返事をした。

最初、伝票とかに書かれていた田中主任の字を見た時に衝撃を受けた。
というのも、田中主任は物凄く字が綺麗だった。

男の人ってそんなに字は上手くないという私の勝手なイメージがあった。
だけど、それが見事に覆された。

こんなに綺麗な字を書く男の人を初めて見た。
読みやすく、間違いなく私よりも字が上手い。
私もこれだけ上手に書けたらいいのにと羨ましくなった。

私は自分の書く字にコンプレックスがある。
字のバランスが悪く、どうしてこんなに汚い字なんだろうと書いていても嫌になる。

サラサラっと書いた字は、たまに自分でも後から見返すと、何て書いてあるんだろう?と解読不能な時がある。
変な癖がついていて、硬筆でも習っておけばよかったと後悔するレベルだ。

パソコン入力しようとマウスを動かしながら何気なく田中主任を見た。

ちょうど自分の席に着き、緩くパーマのかかった髪をかき上げた後、ネクタイを少し緩め一息ついていた。
その一連の動きがあまりにもスマートで目が離せなかった。
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