恋のはじまりは曖昧で
小さくため息をつき、自分の席に座ると、隣の席の浅村くんがニヤニヤしながらマスク姿の私を見て言い放った。
「夏風邪はバカが引くってよく言うけど、それって本当なんだな」
はぁ?
浅村くんに文句の一つでも言いたかったけど、仕事がたまっているので相手になんかしていられない。
ジロリと睨んだだけで、あとはスルーしパソコンを起動させた。
メールの確認をした後、二十日締めの請求業務を始めた。
昨日、必着や指定のある請求書は弥生さんたちが手分けして出してくれていたので、それ以外の業者の請求書作成。
データの入力は毎日していたので、私が休んでいた間に出荷した建材品などをパソコンに入力するだけ。
運輸部に電話して、二十日までの出荷明細と売上伝票のコピーをファックスで送ってもらうように頼んだ。
二十日締めは、末締めの業者に比べたら多くないので気持ち的にも多少余裕がある。
入力し終わり、プリントアウトしてチェックを済ませて封筒に請求書を入れていると、弥生さんが声をかけてきた。
「紗彩ちゃん、封筒詰めが終わったら総務に持って行って郵送してもらってね」
「分かりました」
出来上がった封筒の束を手に営業のフロアを出る。
エレベーターに乗り、総務のフロアがある階で降りた。